アメリカ南部の味わい

で、さっきの本はなにがどう一押しなのヨ、という話です。

アメリカ南部の家庭料理』byアンダーソン夏代(アノニマスタジオ)

アメリカ南部の家庭料理


アメリカは大きなおおきな国ですが、その中でも「南部」は一番濃い〜地域といわれています。
こてこてなんです。
日本で言えば、大阪みたいなものでしょうか。でも、その濃さは大阪よりもはるかに、はるかに濃い〜のです。

文学の世界でも、「アメリカ南部文学」という言葉はありますが、「北部文学」というものは存在しません。東海岸、西海岸はこれまた独特な文化を形成してはいますが、南部文学の濃厚さにはかなわないのではないでしょうか。

代表的なアメリカ南部文学の作家といえば、ウィリアム・フォークナーです。その他にも、マーク・トゥエインフラナリー・オコナー、キャサリン・アン・ポーター、ボビー・アン・メイソン、などなど数え上げたらキリがなく、南部文学の土壌は非常に豊かです。あんまり豊かなので、南部文学のアンソロジーも存在するくらいです。

「南部」というと、どうしても南北戦争における敗戦やかつての奴隷制度のことをすぐに思い浮かべてしまいますが(アメリカ文学専攻だったせいですかね?)、実際こうした歴史的背景が文学に与えた影響は甚大です。
能天気なアメリカの中で唯一すくすくと成長できなかった地方が南部であり、それゆえに、文学は育ってしまったというわけです。

南部小説ってどんなんだよ? と疑問に思われる方は、『ハックルベリー・フィンの冒険』とか読んでみるとよいかもしれません。おりゃあっ、

ハックルベリィ・フィンの冒険 (新潮文庫)

この↑機能、すっかり気に入ってしまいました☆
ドラえもんのポケットみたいです。

さて、ちょっと話がそれてしまいましたが、文学の世界でもこれだけ独特な南部ですから、お料理の世界でも「南部料理」と呼ばれるジャンルがあってしかるべき。
というわけで、南部料理というとケンタッキーフライドチキンくらいしか思いつかなかったわたしも、この本のおかげで南部の食生活の一端を垣間見ることができました。

本書は、そもそも「南部」とはアメリカのどの州を指すのか、という説明に始まり、南部でよく使われる食材の解説もあり、とても丁寧なつくりになっています。

どうして南部料理ではオクラがよく登場するのかもさりげなく言及されています。
日本ではオクラは茹でるのが一般的な調理方法だと思いますが(あとは天ぷらとか?)、南部料理では炒めるのが主流のようです。

同じ食材でも扱い方は国や地域によって全然違うんだなあ、ということを知るのもこの本のページをめくる楽しみのひとつです。

南部料理を実際に作ってみると、フォークナーやオコナーが描く世界の味わいが一段と深まるようでもあります。