A HOMEMADE LIFE

最近読んだエッセイです↓。

A Homemade Life: Stories and Recipes from My Kitchen Table

"A HOMEMADE LIFE"
著者はモリー・ワイゼンバーグというシアトルに住む30代前半の女性です。

全部で73のエッセイが収められていて、それぞれのエッセイの後にそこで登場したお料理のレシピが紹介されています。

単なるエッセイ集というにはプラクティカルな側面がありすぎるし、かといってただのレシピ本でもなく、読み進めていくうちにふと気づけば著者の家族や友人、恋人とお友だちになってしまったかのような錯覚に陥るほどに周囲の人々のことが丁寧に描かれていたりもします。この匙加減は絶妙です。

著者は特にお料理学校に通った経験はなく、ごくごく普通の家庭料理を愛する女性ですが、だからこそこういうジャンル分けの難しい、でもそれゆえにとても個性的で魅力的な本ができあがったのかもしれません。

大学院在学中に父親を癌で亡くし、それを機に学問の世界を飛び出してフード・ライターになることを決意した著者は、その第一歩としてOrangetteというブログを始めたのですが、本書はそのブログをまとめたものです。

まず初めに紹介されるレシピは、ポテトサラダ。これは著者の父親の得意料理のひとつです。

本来ならばポテトサラダのような垢抜けないサイドディッシュではなく、お洒落なオードブルのレシピなどを最初にもってくるべきだったかもしれない、と著者は書いています。でも、あえてこのレシピを冒頭にもってきたのは、父親がどんな人なのかを端的に説明するのに欠かせないものだったから。

二つ目のレシピはブルーベリーとラズベリーのパウンドケーキ。同時にここで紹介されるのは著者の母親です。
こういう構成をみると、やはりこの本がただのお料理エッセイでもないことがわかります。

以前、村上春樹の文章を読んでいたときに、自分について何か書こうと思うなら、カキフライ(たぶん)について書けばいい、というようなことを言っていて、なるほどなあ、と思った覚えがあります。

カキフライについて何か書けば、自然と文章の中に自分とカキフライの「距離感」みたいなものが生まれて、個性が表現されることになるのです。

食べものにはそういう不思議な力があるから面白いなあと思います。


この本には写真は一枚も掲載されていませんが、文字だけの情報をたよりにどんなお料理(あるいはお菓子)なんだろうと想像をふくらませ、作る手順の詳細を考えるのもこの本を味わう楽しみのひとつです。